韓国のジャズ専門誌「jazzpeople」に友惠しづねのインタビューが掲載されました

2012-03-31

jazzpeople
「jazzpeople」2012年3月2日発行 第70号

韓国のジャズ専門誌「jazzpeople」に『眠りへの風景』の紹介と共に、友惠しづね、オフィス友恵の加賀谷早苗等のインタビューが掲載されました。

記事の本文
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友惠しづねのインタビューと「眠りへの風景」評論掲載
(記事は韓国語で掲載されています。日本語訳はご参考まで)
18 年前 開かれた瞬間の軌跡
「眠りへの風景」

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1994年韓国と日本のアーティスト達が共演した舞踏公演「眠りへの風景」が 18 年ぶりにDVDで世界に公開される。
エイジアン・コラボーレショ ンシリーズの一環として制作された本作品には、韓国のメディアアーティスト陸根丙(ユック・クンビョン)の映像と日本の舞踏家・ギタリスト友惠しづね、彼が主宰する舞踏カンパニー「友恵しづねと白桃房」、そして打楽器演奏者金大煥(キム・デファン)とベーシスト吉沢元治等が参加した。
特に約 17 分のミュージックビデオ以外にも 1994 年キリンプラザ大阪で友惠しづね‐金大煥‐吉沢元治が繰り広げた貴重なトリオ即興演奏などが収録されている。吉沢元治は1998 年、金大煥が2004 年に逝去した。その日の公演は、彼らの最後のトリオ演奏であり、公演で記録された後 18 年ぶりに公開される映像だ。

"一念三千"の瞬間に触れ合う

今から 18 年前、今は他界した即興音楽系の大物達に出会える貴重な映像が公開される。 舞踏家であり、演出家、ギタリストとして活躍している友惠しづねを主軸に、打楽器演 奏者の金大煥先生とベーシスト吉沢元治が 1994 年に繰り広げた公演「眠りへの風景」での実況が公開されたのだ。舞台上では金大煥先生のトレードマークになった黒いシャ ツとサングラス、そして中折れ帽子、指の間に通しているスティックが目に映る。先生のカリスマも変わりない。吉沢元治はボウニングと擦弦方式などを利用して音を仕上げ、既存のベースの限界を超え音楽をリードしている強い印象を残す。音の変化を主導して いるのは吉沢だが、金大煥と友恵しづねが強いエナジーでサウンドのハーモニーを導い ている。友恵は陸根丙との会話で"一念三千"について言及しているが、彼らがその時に醸し出したサウンドこそ、その世界を瞬間に収めたのではないかというぐらい、短いが強い意味を残す映像だ。金大煥と吉沢元治が逝去した後に公開される映像だということが大きな意味をもたらす。



INTERVIEW: TOMOE SHIZUNE
- (jazzpeople)DVD「眠りへの風景」の紹介をお願いします。DVDを制作したきっかけは何ですか? 今回の作業の一番大きいテーマは何ですか?


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DVD作品「眠りへの風景」は、1994年の大阪での私達舞踏カンパニーと美術家ユック・クンビョンさん、パーカッション奏者のキム・デファンさん、日本のベーシストの吉沢元治さんとの同タイトルのコラボレーション公演が切っ掛けになります。
私達は「エイジアン・コラボレーション」というシリーズ公演を20年以上続けています。1991年、1993年には大阪の同じ会場で、1992年に東京の劇場でサックス奏者のカン・ティーファンさんをゲストとしてお招きしました。
グローバル時代を迎え、国家、民族問題を含め、アートでいかに普遍的なコミュニケーションを創造できるのか、がテーマです。韓国、日本というカテゴライズではなく「アジアの力」という視座は、これから益々必要とされてくると思います。

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- (jazzpeople)特にこの作業は韓国と日本の緊密な作業で成り立っています。この作品が韓日関係に示唆するところがあるならば何ですか?
私は韓国語が喋れません。ですから公演のリハーサルでもキムさんとは、そんなに多くは会話をしていません。公演の段取りの説明だけです。
ところが、不思議なことにお互いの奏でる音を聴き合うと、一瞬で分かり合えてしまう。昔ながらの友人との邂逅のような、時には出会い頭に目覚める恋愛とも想えてしまうような・・・。音楽というコミュニケーション手段は一瞬で人をあからさまにし、親しみを芽生えさせる訴求力を持つものだと、改めて感じました。
人間の感性を通したより普遍的な領域でのコミュニケーションは、これからの韓国人、日本人の関係をより緊密にしていく手立てになると思います。

 

- (jazzpeople)舞踏というジャンルについて紹介して下さい。
舞踏は1960年代に始まった日本の現代舞踊です。今日では世界でも広く認知される舞台アートです。
舞踏は日本人の生活、文化に根差したところから始まりますが、それが人間の普遍性に行き着くものなのか?この疑問は今でも持っています。それを体で考え尽くすことが私の創作の課題にもなっています。
日本人には日本の舞踏がある。そして韓国人には韓国の舞踏がある。その共通項は何か?それを開拓、発見していくことが、舞踏の使命だと思っています。
「エイジアン・コラボレーション」は、その一つの試金石として始めました。


- (jazzpeople)Tomoe Shizune & Hakutobo についてもご紹介お願いします。
「友恵しづねと白桃房」は1987年に舞踏の創始者の一人とされる土方巽が亡き後、その弟子達を中心に私を主宰者として結成されました。
土方は舞踏を単なる前衛的なパフォーマンスから脱却させるべく舞踊スタイルとして確立するためにメソッド化に取り組みました。彼は志半ばにして1986年に57歳で亡くなります。
一方、土方と並び舞踏創始者とされる大野一雄さんは即興舞踏を銘打っていました。
舞踊アートの形と即興、この大きな問題に取り組むのが私の使命と想い、弟子達と伴に25年の修行、研鑽をし続けてまいりました。
2010年に103歳で亡くなられた大野一雄さんと舞台を伴にし続けたご子息の大野慶人さんから、「舞路・人・一心 土方巽・大野一雄・友恵しづね」と書かれた書をお贈りいただきましたが、既に鬼籍の人となられたお二人の技術と精神を受け継ぐ者として強い責任を感じています。
舞踏を日本人の特権的アートとしてアピールする方も多いようですが、私はそうは考えません。舞踏は人類という視座を持ってこそ普遍的アートたり得ると考えているからです。
今回の企画で韓国のアーティスト、協力して下さった多くの皆様との心を通した触れ合いが私達の今後の活動の糧になると信じています。

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- (jazzpeople)舞踏ではどんな音楽が主に使われていますか? またこの作品での友惠しづねさんの音楽的な特徴は何ですか?
舞踏は当初は市販の西洋のポップ・ミュージックが使われていました。今でもそういう方が多いようです。私達の先生である土方巽の作品でもビートルズや西洋の軽音楽が使われていました。そのことで踊りと音楽との関係が確立されていないとの批判を受けることもあったようです。
私は踊りの振付けと音楽を同時に創る場合が多いのです。アコースティック・ギタリストでもありますのでギター曲も多いです。その音楽は日本的要素を持つものだと批評されています。
コラボレーションでは相手の方のアート・コンセプトや人間性に触発されて創ります。そして、何より情緒的な共鳴というものを大事に考えています。この作品ではユックさんの映像世界と解け合うような音楽になればと想いました。

- (jazzpeople)友惠しづねさんの音楽で映像作業と即興演奏の差はありますか?
舞踏、映像作品における作曲作品は多分に演出家的視座を持ちます。即興では、自分を含めてその場の参加者全員の個性、その呼吸、そこから生み出されるアンサンブルを重視します。

- (jazzpeople)特典映像として金大煥さんと吉沢元治さんが参加した公演の映像も含まれていますが、これはどんなきっかけで出来ましたか?その日の公演についても詳しい説明をお願いします。
「エイジアン・コラボレーション」というシリーズ公演を行っていることは既にお話しました。1980年代後半、日本の即興音楽シーンで活動する韓国人音楽家が現れます。その嚆矢となったのがカン・ティーファンさんでありキム・デファンさんでした。彼らの演奏からは韓国の文化、風土を象徴するかのような奥深い力強さを感じました。日本の音楽家と音の質感が違うんですね。それが私には大変新鮮に想えました。
私は東京のライブハウスでキムさんの演奏を聴き、彼とのコラボを望みました。1994年に彼と私達の公演でご一緒できたことは幸せの限りです。キムさんにとっても舞踏とのコラボは初めてのことだったと思いますが、簡単に段取りを打ち合わせただけで、直ぐにお互いを理解し合い創造的なアンサンブルを紡ぎ出せることは即興音楽の、そして舞踏の大きな魅力だと思います。
同公演に参加して下さったベースの吉沢元治さんは、1980年代半ばから私と即興演奏デュオ・グループを組んでおりましたが、彼は日本の即興音楽シーンの草分け的な存在であり伝説的な人です。本DVDでの三人の演奏シーンの映像はとかく難解と捉えられがちな即興音楽への理解を深め、また、これからの韓日文化交流の一つのあり方を示唆する上での貴重な資料になっていると思います。

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- (jazzpeople)日本国内で金大煥さんの音楽はどのように受け入れられていますか?
日本の即興音楽シーンで彼の演奏を愛する人は多いと思います。彼の日本での活動を集約したCDが発売されていることもそのことを物語っています。

- (jazzpeople)この作品に関して韓国のファンに言いたい事があれば気軽におっしゃって下さい。
ソウル、済州島、智異山で撮影されたユックさんの叙情溢れる映像と私とキムさん、吉沢さんの音楽とのコラボ作品は大変独異性を持つものだと思いますが、長く繰り返しご鑑賞いただけたなら嬉しい限りです。